「MITSUSHI YANAIHARA(ミツシヤナイハラ)」展覧会「FLOATING LIFE展 “浮世に着る服”」

【INTERVIEW】MITSUSHI YANAIHARA 多面的に自身の姿を写し出す 体験型インスタレーションを開催

「MITSUSHI YANAIHARA(ミツシヤナイハラ)」のデザイナー 矢内原充志が、4シーズン振りとなる新作発表として展覧会「FLOATING LIFE展 “浮世に着る服”」を、象の鼻テラスで、9月28日(水)から10月2日(日)まで開催中。

会場に3つの部屋に分かれた大きなフィッティングルームを設け、カメラ・モニター・鏡を通じ「多視点」「変形・歪み」「時間」という、それぞれに違った体験を生み出すインスタレーションを展開。浮世と表現する現代において、服を通じ自身の姿を多面的に捉える演出を施した。

今回は、舞台衣装からアートディレクター、イベントの企画や演出、そしてアーティストなど多方面で活動する同氏に、イベントのこと、そしてクリエイションについてお話を伺った。

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試着室2.0と題されたフィッティングルーム。異なる3部屋を左から順に進むことで、自身の姿を新しい視点で見る事が出来る。


— 今回のフィッティングルームはどのようなプロセスで生まれたのでしょうか。

フィッティングルームが閉じられている場所であり、それがファッション業界とも重なって感じる部分もありました。実際、展示会というとお店のような見せ方にすることが多いですが、街に着て行くであったり、これから社会に出ていくものなので、もうちょっとパプリックにできないかなというのは以前から考えていたことです。その中で、半開きのフィッティングルームという構想ができ、自分を見ることの面白い見方を探って行きました。
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①アングルを変える部屋( 前、上、後ろ、横など、あらゆるアングルから捉えられた姿が、目の前のモニターにランダムに流れる)

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②ゆがんで見える部屋(加工された鏡や映像によりゆがんだ姿が出力される。何かのフィルターを通すことで歪められる様子や実態とは異なることを表現した)

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③過去と現在が見える部屋(①②で撮られた映像がログとして記録され映し出される。今の自分と過去の自分と比較することで、多面的な自身の像と向き合うこととなる)

— 今の映像ではなく、録画したログを見せて今と対比するというのは新しい体感です。
動画のログを溜めて見せるという行為は、SNSも正にそうじゃないですか。過去の自分の投稿を今誰かが見て、もしかしたらその印象を持たれたまま明日会うこともある。それは大切でもあるし、客観視できるけれども、一側面でしかないですよね。別にSNSがダメということではなく、あくまで鏡のようなものであり、それと並列して他人の目など多くの視点が混ざる事で、浮き彫りになる像が本当の自分の姿に近いのかなと思います。
ただし、自分探しというひとつの像を目指すのではなく、逆にこっちもあっちも自分であるという、自分すら拡散する行為というか。一回、今まで思ってた自分を捨てちゃおう、緑が似合わないと思ってた自分も捨てるか!みたいな(笑)

— 試着室の鏡は、購買を促進するために敢えて魅力的に見えるように演出されている場合もあります。その意味では多面的にありのままを見せるというのは冒険的だと感じました。
なるほど、確かにそうですね。そういう意味ではフィッティングのシステムや鏡の前の空間づくりもコマーシャリズムとかマーケティングの中で完成されていったものなんですね。当たり前に思っていましたが、いい意味でも悪い意味でもその文脈にいないってことですね、多分(笑)

img_2756スタンダードなアイテムも、ディテールのスケールやポジションを変化させることで再構築している。

— 改めてブランドコンセプトである「人生に寄り添い、静かに存在を揺るがす服」とは?
もともとは舞台衣装から派生した「ニブロールアバウトストリート」というレディースブランドをしておりましたが、2011年の震災をきっかけに、僕の中の「女性像」のようなものが消えてしまい思考が止まってしまった時期がありました。
ただそんな中でも、生地や洋服が好きなことや自分と社会の接点を思考した時に「ファッション」というフィルターを切って離すことはできず、自分や同世代の人々の日常に寄り添ったリアルクローズをメンズラインとして発表していこうという考えに至りました。「存在を揺るがす服」という言葉の中には、時の流行りやそれぞれが持ってしまっている固定概念に常に立ち向かっていきたいという気持ちを込めています。

— 衣装やプロジェクト、プレタポルテで作るそれぞれの服の違いは?
衣装=空間や時間を含めた演出に近いビジュアルデザインです。もちろん特殊な身体に向き合うことが多いのでその意味でも非現実的なものづくりになります。
プロジェクト=街づくりなどで制服などを作ることも多いですが、これはやはり企画の一環です。
プレタポルテ=普段から着られる街着です。

img_2798左の身頃は先染めガーゼの生地。それをスキャンしデジタル昇華プリントした生地を右の身頃に。

—プレタポルテとしては4シーズンぶりの新作発表とのことですが、なぜ今?
お店に卸もしていたのですが、ざっくり言うとそれに疲れたという感じ。幸いディレクションや衣装などのお仕事を頂きキャパ的にはオーバーしている状態なので。でもプレタポルテをどこかで発表しなきゃなと思ってたら2年経ってしまったという感じです。気楽か!と友達に言われましたが(笑)。

— それはデザイナーとしてやらなきゃという事ですか?
そうですね、ずっと並行してやってきたので。ただ、やっぱり大変な時期もありました。例えば広告もやって成功しているカメラマンが、元々やっていたアート性の高い作品を急にまた発表して、どうしようもないっていうパターンって結構あるじゃないですか(笑)。
それって大変ですけど、目的のあるものづくりと、アートに近い表現というのは意地でも並行して人生の中でやっていくしかないと思ってるんですよね。上手に切り分けられないっていうか。
なので売れにくいだろうけど、面白いものを作ってるブランドは本当に頑張って欲しいしと思う。面白いなってところが翌年無くなる現象が多いじゃないですが、それは寂しいですよね。ただ、辞めない方法を探らないと息切れしちゃうんですよ、2、3年経って辞めた!って。だから、他の事しながらでも、細くてもいいから10年20年続く道を探して行かないといけないというか、なんとかならないものかなって思いますね。

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— 空間のアートディレクション、プランニングなど、ものづくり以外の活動はどのような位置づけ・影響があるのでしょうか?
「モード=時代の価値」という見方でディレクションやブランディングのお仕事をさせていただいています。影響はディレクション業を盛んにやるようになって、視野を広く保てるようになったこと。また逆にファッションブランド業務はコンセプト作りから、商品販売までを短期間で一気にやらなくてはいけないので、そのことがディレクション業においてすごく役に立っていると思います。

— 他ジャンルのクリエイターとのコラボを盛んに行っていますが、意識して行っていることですか?
若い頃からずっと自然にやっていることですが、面白い人と話して、僕には出来ない事をできるかなって話して、その延長できています。縫う事やファブリックを扱う行為は自分達でできることなので、アパレルメーカーと絡むのではなく、ファッションという窓口から他ジャンルのクリエイターと街づくりやディレクションをすることが多いですね。ファッションデザイナーを語っているからって、必ずしも着れる服を作んなきゃいけないってこともないですから。ファッション=モード=価値のことだから、世の中に今こんなことを考えてますと提示することもメッセージなので。

img_2786デザイナー 矢内原充志氏

— テーマとして掲げている”ファッションが社会に出来る事を常に意識している”とは?
「ファッション=モード=時代の価値」という考え方をいつもしています。そのスタンスでいたおかげで、スローレーベルの前身にあたる横浜ランデブープロジェクトや横浜市とのメイドインヨコハマプロジェクトなどファッションデザイナーとしてソーシャルプロジェクトを企画したり、参加する機会を多く頂きました。
また、今年は横浜市が実施するクリエイティブ・インクルージョン活動の一環として、ドヤ街である寿町でのファッションプロジェクトを予定しています。ファッションで街を元気にしようというプロジェクトで、ざっくり言えばサプール的なことをやりたいと。ただ、サプールのようなビジュアルを作ったり、単純にオシャレな発信をするのではなく、対話から彼らが身に付けるもので拠り所になるものを半年かけて見つけていこうとしています。寿町ならではのファッションによるアイデンティファイをするというか、具体的に言えば、和柄に固執がある人にこういうバッグを渡したらずっと使ってくれるんじゃないかとか、赤い色が好きな人がいれば赤い何かというのを、ちょっとずつ打ち出していって、それが映り込んだ写真中の出版と10型くらいかもしれないですが、服も作りたいと思っています。

ミツシヤナイハラ 新作展 「FlOATING LIFE展 “浮世に着る服”」
期間:2016年9月28日(水)〜10月2日(日)
時間:11:00〜18:00 (最終日17:00クローズ)
会場:象の鼻テラス
住所:横浜市中区海岸通1丁目
入場料:無料
URL:http://www.zounohana.com
デザイナー:矢内原充志
アートディレクション:河ノ剛史
空間構成:abanba / stgk inc.

ファッションパフォーマンス「フィッティングルーム」
日時:9月30日(金)
1回目:17:00〜17:15
2回目:19:00〜19:15 (レセプションパーティーの時間帯となりますが、希望であれば一般の方も参加可能)
演出・振付:ストウミキコ (http://www.micollabo.com/
音楽:小島創太郎 & 宿谷一郎 (from サンガツ) (http://sangatsu.com/
出演:天野悠二 Ayako

MITSUSHI YANAIHARA
URL:http://www.mitsushi-yanaihara.com/