フォトグラファー 嶌村吉祥丸 写真展「The Room」

【INTERVIEW】フォトグラファー 嶌村吉祥丸による写真展「The Room」

フォトグラファー 嶌村吉祥丸が、写真展「The Room」を南青山で開催中。期間は7月4日まで。

会場は「The Room」と「The Home」2部構成で、”生活空間における作品展示により生み出される新たなコミュニケーションと自然なつながり”をテーマに、南青ハイツというマンションの一室を会場に約80点の作品を展示する。

「The Room」では、ロンドン・パリ・ベルリン・ワルシャワなどヨーロッパ各地で撮影したファッション写真に加え、タイ・ラオス・カンボジアといった東南アジア地域での旅の写真を中心に展示。また「The Home」は、路上生活者が写ルンですで写真撮影を行うプロジェクトとなっている。

今回は、展示の内容とともに、嶌村吉祥丸氏の写真観についてインタビューを行った。

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今回の個展について

− この場所を選んだのは?
これまでギャラリーで展示してきて、堅苦しいというか、くつろぎにくい。白壁に、床がコンクリートで額縁飾って良いねみたいな、そりゃいい写真飾れば良いに決まってるじゃんっていう。もう少し空間として、本来コミュニケーションを取るはずがないのにそれが取れちゃうみたいな雰囲気が人の家にはある。
ギャラリーってどっちかっていうと、声が掛けづらいじゃないですか。だけどこういう場所だと話しかける状況が起こりえる。そういう自然の中で、人間が暮らしてる中に写真があるよという意味でここを選びました。

− 「The Room」について
ヨーロッパシリーズはファッションで、パリコレ、ロンドンコレクションのバックステージと、あとは僕がスタイリングしたロンドンの子の写真です。また、タイ・ラオス・カンボジアでは、人間らしく生きている姿を感じることができました。電気も通ってない場所だったんで、そういう時に人間は、食べて寝て働いてっていう。その中でも大切なのは、近所の子供達と遊んだりとか、お母さんの洗濯を手伝ったりとか、そういう原始的なところを見れて、その部分を見せれたらいいかなって思っています。

− 「The Home」 どうして路上生活者を?
きっかけは、ロンドンで同じようなことをしている人がいて、まだ日本でやってなくないか、単純に面白いんじゃないかというところからスタートしました。彼らが一番ストリートに立っているわけだし、彼らが生きてきた道があって、他の誰にも撮れない写真が撮れるだろうなと思って。

6人に実際に声を掛け、写ルンですを渡し、1週間後に回収して、現像しています。テーマも与えずに”何を撮ればいいんだ”と聞かれてもご自由にとお願いしていたので、全部撮り終わらない人もいました。またインタビューもしていて、それぞれ思っていることもあって、じっくり読んで欲しいです。

ただ一回で終わらせたら意味がなくて、何回もやっていくうちに最初はネコしか撮らなかったのが、子供の笑顔を撮ったりとか、写真は嘘がつけないので、被写体との距離とかでその人らしさが出るなという。これを何回もやっていくうちに、僕らに対する彼らのフィルターが良くなって、彼らの世界を見る目も変わって行ったら面白いなと思っています。

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自身について

− 写真を始めたきっかけは
ある日おじいちゃんの家に行った時に、カメラを貸してくれて「一回持って帰っていいよ」と言われて、それで遊んでいたのが最初です。

− その時はどんな写真を
もともとファッションが好きで、友達のファッションスナップから撮り始めました。それまではずっとサッカー少年で、サッカーばかりしていましたね。

− いつフォトグラファーになろうと決めましたか
きっかけはなくて、気づいたらなっていたという感じです。よし、写真で食って行こうというのはなくて、お仕事も自分の周りの縁や関係で頂いて撮っているので、写真家っていう意識はないですね。

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− 影響を受けた人はいますか
「Maison Margiela(メゾン マルジェラ)」のデザイナー マルジェラですかね。彼の作り出すイメージ、ルック、昔発表していたムービーもすごく面白くて、価値観とか、服に現れる哲学は影響影響を受けています。

− 「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」が好きという事は、自身が顔を出さずに活動していることにも影響していますか?
あると言えばある、ないと言えばない(笑)。出さない事を通しているのは、共通する意図があると思います。顔を出す事によってイメージが付く事もあるし、作品に自分の根っこが乗り移っているので、わざわざ顔を出す必要はないかなと思います。

− 写真はどのように撮りますか
作品の場合は、完全にその場で見つけた思いつきなので、プロセスというのはあまりないですね。ファッション写真は、こっちにもたれてとか指示はしますし、思いついた時は画づくりもしますけど、ほぼそのままって感じです。ファッションスナップは、道端を歩いているときにポッケにカメラを忍ばせているんで、反射的に撮っています。

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− 作品を撮るときに意識している事は?
本当に残さなきゃいけないものを、残すようにしています。ファッション写真って基本的に消費されるもので、2016SSとか付いている時点でその時そのシーズンのものですよって言っているじゃないですか。
だけど消費されにくい一般的な概念だったり、もう少し大きいテーマだったりすると、もっと大切なことだよねって写真を通して言える。そういうことを作品の時は意識するようにしているし、無意識的にやっているかもしれないですね。

− 過去のインタビューでは”生の感触”という言葉で意識している事を語っていました。
僕らが日々暮らしている中で、本来的に”君は明日の朝起きたら死んでいるよ”って言われたときに、いわゆる人間らしく生きているかというのが、生の感触。ペインティングでも写真でも、言語外の要素を集約させて何かを表現しようとして、飛び出たものがそういうものかなと思っています。

− 楽しい瞬間はいつ?
写真展は、人と人とがどんな話もできる素敵な空間だなといつも思います。例えば、昨日何食べたって話もできるし、一歩踏み込んだ話もできる。そういう時間はどこの空間でも起こりうる、それが楽しいですね。
ただ、撮る時も楽しいですよ。来たな!っていう時はやっぱあるんで。思わずニヤけたりとか、これズルいなみたいな瞬間に出会ったときは楽しんでるんだと思います、無意識で。

あんまり写真家を知らないんですけど、写真集を見ているときに、ここ撮る!?ここ見てる!?っていうのがあるじゃないですか。良い写真家ほど、普通の世界をどう面白く見ているかみたいな。自分が見ている世界がどれだけ面白いかというのを、より面白く伝えているっていうのをやれたらいいんですけど、まだまだですね。

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− 写真の魅力は何ですか?
0.1秒とか、いわゆる刹那的なもの、例えば少し違うだけでも笑顔が寂しい顔になったりする。けどそこにはその瞬間があったんだよというのを、物質的に残せることが魅力だなと思っています。
上のスナップは、子供達とサッカーをした時撮ったものなんですが、ここにはそれに付随した1時間なり5分なりの記憶が一瞬に詰まっているんですよ。写真には、平面の中に四次元的な、タイムスリップじゃないですけど、そういう意味合いが含まれていて、言語として素敵だし、記憶装置としてもすごいし、思い出としても大事。色んな顔や価値を持っていることが魅力ですね。

− 写真がもつ力をどのように捉えていますか?
それこそ、写真が言語となりうる、コミュニケーションの手段となりうるじゃないですか。スポーツとか音楽とかと一緒で、いきなりアフリカに行ってサッカーしたら仲良くなれるみたいな。それと一緒である種のコミュニケーション手段だし、人と人が何かを交わすために使えるひとつかな。

− 生き方など、自身のスタイルやこだわりはありますか?
僕の名前が吉祥丸、吉と祥が幸せの意味で、丸がその幸せを周りと共有するみたいな。自分が自分らしく生きているだけで、周りの皆がグッドな方向に行く、いい影響を与える存在で、みんなで幸せな方向に向かって行ける生き方ができればいいかなと思っています。

Photo exhibition “The Room”
期間:2016年7月1日(金)〜4日(月)
時間:12:00 – 20:00
会場:南青ハイツ518号室
住所:東京都港区南青山6-1-32
入場料:無料
URL:http://kisshomaru.com/

Kisshomaru Shimamura | 嶌村 吉祥丸
東京生まれ。ファッション誌、広告、カタログ、アーティスト写真など幅広く活動。

Exhibition
2014:”Unusual Usual” (Portland)
2015:「東京男子」(Tokyo)
2015:”You are good” (Tokyo)
2016:”Inside Out” (Warsaw)